社会保険労務士
梅川 貴弘
うつ病などの精神疾患を抱えて、働きたくても働けずに困っている人たちに向けて障害年金の請求代行サポートを開始。
現在は、社会保険労務士6名、日本年金機構勤務経験者4名の専門チームで、全国のうつ病等で悩む方々の障害年金請求手続きを支援している。
[うつ病などの障害年金請求代行]
就労継続支援A型事業所(以下、A型事業所)で働いていると障害年金は受給できないのでは?と不安に思う方も少なくありません。
この記事では、A型事業所の基本から、障害年金の手続きを行う際の注意点まで、初心者にもわかりやすく解説します。
A型事業所に通いながら障害年金を受け取るために知っておきたい情報を一緒に見ていきましょう。
目次

A型事業所とは、一般就労で働くことが難しい障害者に対して「就労継続支援A型」という就労系障害福祉サービスを提供している事業所のことです。
ここでは、就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)との違いや、実際の作業内容、収入等について分かりやすく解説します。
福祉的就労は、障害のある方が福祉的な支援を受けながら、訓練も兼ねて働くことができる就労のかたちです。支援の種類は、就労継続支援A型と就労継続支援B型の2つがあります。
どちらも「一般企業での就労が難しい方」に働く機会を提供する制度です。
A型事業所では、利用者は事業所と雇用契約を結び、労働者として最低賃金法で定められた額以上の賃金(給与)を受け取ります。
軽作業・パソコン作業・清掃・調理補助など、比較的取り組みやすく継続可能な業務が提供されています。支援員のサポートを受けながら働けるため、初めての方でも安心して就労に取り組める点が特徴です。また、最低賃金以上の賃金が支払われる点が大きな強みです。
B型事業所では、雇用契約を結びません。
利用者はあくまで自主的な活動として作業に取り組み、その成果に応じた工賃を受け取ります。袋詰め・シール貼り・封入作業などの負担が少ない軽作業が中心です。作業量も、個々の体調やペースに合わせて柔軟に調整できます。
<A型事業所とB型事業所の比較>
| A型事業所 | B型事業所 | |
|---|---|---|
| 雇用契約 | あり (労働者として働く) | なし (作業員として働く) |
| 収入 | 最低賃金以上の「賃金」 | 「工賃」 |
| 対象者 | 一定の支援があれば雇用契約を結んで働ける人 | 就労が困難でも、軽作業には取り組むことができる人 |
| 作業の性質 | 一般就労に近い業務 | より柔軟な環境で、無理のない範囲での軽作業 |
| 目指す方向 | いずれ一般就労へ移行すること | 生活リズムの安定や社会参加の機会を確保すること |
では、実際に事業所を利用した場合、どのくらいの収入が得られるのかは気になるところですよね。
ここでは、令和5年度の厚生労働省の調査結果をもとに、A型事業所・B型事業所での平均的な収入を見ていきましょう。
| 平均収入(月額) | 平均収入(月額) | |
|---|---|---|
| A型事業所 | 86,752円 | 最低賃金が適用される |
| B型事業所 | 23,053円 | 賃金ではないため、低額であることが多い |
基本的にはこのような水準であることを理解しておくとよいでしょう。ただし、ここで示した金額はあくまで全国平均の目安です。実際の収入は、通所日数や働くことができる時間、障害の程度、さらには地域の最低賃金の違いなどによって大きく異なります。
たとえば、障害の程度が重く、働ける時間が限られている場合には、その分収入も少なくなることが想定されます。そのため、生活を支えるうえでは他の収入源との組み合わせを考えることも重要です。
そのひとつとして、もっとも心強い制度が「障害年金」です。
障害年金とA型事業所での就労を併用した場合の収入については、後述の「障害年金とA型事業所を併用するメリット」で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご確認ください。

A型事業所での収入だけでは、生活に不安を感じることもあります。
そんなとき、生活を支える大きな安心材料となるのが「障害年金」です。実際に、A型事業所に通いながら障害年金を受給し、生活の安定につなげている方は少なくありません。
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。老後に受け取る年金と同じように、公的年金制度のひとつであり、年金保険料を一定期間以上納付した方が対象となります。
障害年金には大きく分けて「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2つがあり、どちらの年金を受け取るかは、初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日)において加入されていた年金制度によって決まります。
| 初診日に加入していた年金制度 | 年金の種類 | 障害等級 |
|---|---|---|
| 国民年金 | 障害基礎年金 | 1級と2級のみ |
| 厚生年金 | 障害厚生年金 | 1級~3級まで |
初診日が20歳未満の時にあり、公的年金制度に加入していない場合は、障害基礎年金の対象となります。この場合、保険料の納付状況は問われません。
障害年金には等級があり、障害の程度に応じて重いほうから1級・2級・3級の順でいずれかの級に認定されます。それぞれの級のおおまかな目安は以下の通りです。
ここで注意しておきたいのが、障害基礎年金では1級か2級のどちらかに該当した場合しか支給対象にならないという点です。3級があるのは障害厚生年金のみで、支給対象者は、初診日において厚生年金に加入していた方に限られます。
就労しながらでも認定されやすい3級がある障害厚生年金と比べると、1級と2級しかない障害基礎年金では、就労の有無がより等級認定に影響しやすい傾向があります。
とはいえ、「働いている」というだけで障害年金が受給できなくなるわけではありません。 次に、就労が等級の判定にどのように関係してくるのかを詳しく見ていきましょう。
障害年金の等級のうち、2級は「日常生活が著しく制限され、労働によって収入を得ることが困難な状態」が目安とされています。そのため、たとえ軽い就労であっても、「働けている」という事実があると、1級や2級の認定を受けることが難しくなることがあります。
特に注意したいのが精神障害の場合です。
精神の等級認定では、「日常生活にどの程度の支障があるか」といった日常生活能力に加えて、「働くうえでどの程度の制限があるか」といった労働能力が、ほかの障害以上に重視される傾向があります。
実際、診断書に就労の状況を詳しく記載する欄があるのは、精神障害の診断書だけです。仕事内容や雇用形態、出勤頻度などが細かく問われており、働いているかどうかが等級の判定に影響しやすいという特徴があります。
ただし、精神障害であっても、すべてのケースで就労がマイナスに働くとは限りません。病状が重く、福祉的就労を何とか行えているような状況であれば、2級以上に該当する可能性も十分にあります。
また、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由などの身体的な障害の場合は、医学的な数値や検査結果に基づいて等級が定められていることが多く、就労の有無が直接的な判断材料になることはありません。そのため、働いていても、認定基準で決められた測定値や検査の数値を満たしていれば、定められた等級の通り認定されます。
大切なのは、障害の種類にかかわらず、「働いている=年金はもらえない」と諦めてしまわないことです。
障害年金業務責任者
綾部真美子
厚生労働省の年金制度基礎調査によれば、障害年金の受給者全体のうち、約34%が何らかの形で就労しているというデータがあります。さらに、障害基礎年金の受給者に限定すると、その就労先としてもっとも多いのがA型事業所やB型事業所などの福祉的就労の場であることがわかっています。
さきほど、精神障害では就労の有無が等級の判定に影響しやすいこと、そして1級と2級しかない障害基礎年金では、働きながらの受給が難しい場合もあることに触れました。
それでも、調査報告にあるように「A型事業所で働きながら障害基礎年金を受給している」という方は、決して珍しくないのです。
厚生労働省が定める「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」においても、就労しながら障害年金を受け取ることができる可能性がきちんと示されています。
就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。就労移行支援についても同様とする。
このように、就労していることをもってただちに障害年金の対象外とするような運用は想定されていません。もちろん、最終的な判定は、申請書類の内容全体が総合的に考慮されたうえで行われますが、A型事業所に通っていること自体が障害年金の受給を妨げる理由にはなりません。
むしろ、福祉的な支援を受けながら働いている実情をきちんと伝えることで、受給が認められる可能性も十分にあるのです。

A型事業所での就労と障害年金の受給は、必ずしも相反するものではないことがわかってきました。では実際に申請(請求)を行うとき、どのような点に気をつければ、受給の可能性が高まるのでしょうか。
ここでは、診断書の記載や申立書の作成において、特に重要となるポイントを紹介します。
障害年金の申請において、診断書は最も重要な書類のひとつです。
特に精神障害の診断書には「現症時の就労状況」という欄が設けられており、ここにどのように記載されるかが等級の判定に大きく影響します。
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この就労欄では、A型事業所での福祉的就労であることが明記されず、単に「働いている」と書かれるだけでは誤解を生む恐れがあります。
実際には、支援員のサポートを受けながら短時間だけ働いたり、多くの配慮を受けてようやく就労が成り立っていたりします。そうした実情を、書類にしっかり反映させることが大切です。
そのためには、主治医に対して就労状況をできるだけ具体的に伝えることが欠かせません。
どのような仕事をしているのか、週に何回・何時間働いているのか、体調の波によって休むことがあるのか、支援員がどの程度関わっているのかなど、客観的な情報を共有しておくと、診断書にも正確な情報が記載されやすくなります。
診断書の就労状況に関する欄は、実際に働いているあなたが医師に提供する情報にもとづいて記入されます。そのため、医師に対して、あらかじめ就労の実態を整理して伝えておくことが、診断書の内容を左右する大切なポイントになります。
以下の7つの項目があるので、あらかじめメモなどを作成し、主治医に渡しておくとよいでしょう。
これらの項目をあらかじめ整理し、主治医に「このような状況です」と伝えておくことで、診断書に記載される「就労状況」が実態を反映したものとなります。
なお、診断書の記載スペースには限りがあります。就労に関する詳細なエピソードや、医師に伝えきれなかった状況などがある場合は、次に案内する「病歴・就労状況等申立書」に記載して補いましょう。
A型事業所などでの福祉的就労であることが診断書にきちんと記載されれば、働いているという理由だけで障害年金が不支給になることは基本的にありません。 ポイントを押さえて、安心して手続きを進めていきましょう。
社会保険労務士
梅川 貴弘
障害年金の申請時に提出する「病歴・就労状況等申立書」は、これまでの病歴や就労状況、日常生活上の困難について、本人の視点で自由に伝えることができる書類です。
医師が作成する診断書とは異なり、自身の体験をもとに具体的なエピソードを記載できるため、診断書だけでは伝わりにくい事情を補足するうえで非常に有効です。
特にA型事業所で働いている方の場合、以下のようなポイントを補足すると、審査側に実情が伝わりやすくなります。たとえば、「支援員のサポートがなければ継続できない」「体調の波で欠勤が多い」「作業を理解するのに時間がかかる」といった具体的なエピソードは、表面的な就労実績だけでは見えてこない部分です。
また、「朝の準備に時間がかかる」「外出には付き添いや送迎が必要」「買い物や通院を一人でこなせない」「1日3時間の就労が限界で、午後は横になって休まないと体調が悪化してしまう」といった日常的な困りごとを交えて記載することで、A型事業所への通所ができているからといって生活に支障がないわけではない、ということを明確に伝えることができます。
申立書は、あなた自身の生活を審査員に伝えるための大切な手段です。診断書に記載された日数や数字だけでは伝わらない部分を、自分の言葉で丁寧に補足するようにしましょう。

障害年金を受給している方の中には、初回申請時には無職だったものの、その後A型事業所での就労を始めたことで、「次の更新で支給が止まってしまうのでは…」と不安を感じている方も少なくないでしょう。
実際、精神障害で一般就労を開始した場合には、労働能力が回復したと判断され、支給停止や等級変更につながることもあります。
ですが、A型事業所のような福祉的就労では、支援を受けながら短時間の軽作業を行っているケースが大半です。このような働き方であるにもかかわらず、ただちに「労働能力が回復した」と判断されて支給停止に至ることは、基本的にありません。
更新の際に提出する書類は、原則として「障害状態確認届(更新用の診断書)」のみです。初回申請時と同様に、診断書には就労状況を記載する欄があり、ここにどのように記載されるかが重要なポイントとなります。
A型事業所での就労であることを医師に正確に伝え、仕事内容や支援の有無、就労に伴う困難さなどを事前に整理して具体的に説明することが非常に大切です。
A型事業所での就労であることがきちんと診断書に反映され、かつ、前回提出した診断書と比べて症状の程度が著しく改善していない限り、就労していることだけを理由に支給が停止されることは基本的にありません。
前のセクションで紹介した項目に沿って情報を準備しておけば、医師も診断書に反映しやすくなります。
更新の審査は、初回よりも比較的ゆるやかに行われます。 A型事業所で働き始めたからといって、過度に不安になることはありません。就労状況についてきちんと医師に報告し、診断書を作成してもらいましょう。
社会保険労務士
梅川 貴弘

これまで見てきたように、A型事業所で働きながら障害年金を受給することは十分に可能です。
むしろ、一定の収入を得ながら生活の安定を図り、少しずつ社会とのつながりを築いていくうえでも、障害年金とA型事業所の併用は有効な選択肢のひとつと言えるでしょう。
たとえば、令和7年度の障害年金(月額)とA型事業所での平均賃金(月額)を加えた収入の目安は以下のようになります。
このように、A型事業所で働きながら障害年金を受給することで、ある程度の収入を得られ、生活の安定につなげることができます。
障害年金の受給と両立しやすいA型事業所などの福祉的就労は、これから働き始めようと考えている方にとっても安心して踏み出せる選択肢のひとつです。
生活の安定を保ちながら、少しずつ社会とのつながりを築いていきたいと感じている方は、ぜひ一度検討してみてください。
この記事では、「A型事業所で働きながら障害年金を受給することができるのか」という疑問に対して、制度の基本から申請・更新時の注意点、そして両立することのメリットまで解説しました。
A型事業所での就労をすでに始めている方も、これから就労を検討している方も、障害年金をうまく活用することで、より安心して生活を送ることができます。
みのり社労士事務所では、障害年金の受給を手続きの面からしっかりとサポートしています。
申請実績も多数あり、必要に応じてA型・B型事業所の職員の方々とも情報を共有しながら、就労実態や日常生活の状況が診断書・申立書に正しく反映されるよう支援いたします。
安心して一歩を踏み出していただけるよう、当事務所が皆さまの頼れるパートナーとなれれば幸いです。
いいえ、A型事業所は福祉的就労に分類され、支援を受けながら働いていることが多いため、障害年金を受給できる可能性は十分あります。
診断書には、A型事業所での就労であることや実際の勤務状況、援助の内容などをしっかり記載してもらうことが重要です。
いいえ、A型事業所に通所していることを理由に、直ちに障害年金が支給停止になることはありません。
更新(再認定)のタイミングで支給継続の可否について判定されます。更新の診断書にも、A型事業所での就労であることや実際の勤務状況、援助の内容などを正しく記載してもらうことが重要です。
障害年金は働いて収入を得てもその分が減額されることはありません。また、原則として支給停止になることもありません。
障害年金は生活保護とは異なり、就労収入によって自動的に減額されることはないので、安心して制度の活用を検討してください。
障害年金には収入による支給停止の基準は設けられていません。
ただし、20歳到達前に初診日があり、障害基礎年金を受給している場合には、前年の所得額が約376万円を超えると「半額停止」、約479万円を超えると「全額停止」と定められています。(扶養親族がいる場合は、所得制限額の加算があります。)
B型事業所は、一般就労やA型事業所での就労が難しい方が対象となるため、働いていることが理由で不支給になったり支給停止になったりするリスクは低いとされています。受給の可否は、他の要素(症状の程度など)と合わせて総合的に判断されます。
支給停止の可能性があるのは、更新(再認定)のタイミングです。その際、診断書に記載された症状の程度や就労状況をもとに、等級の変更や支給停止の判断がされます。そのため、主治医には就労の実態や生活上の困難を正確に伝えることが重要です。
2級は「日常生活に著しい制限がある場合」、3級は「労働に著しい制限がある場合」に該当します。
障害厚生年金を受給されている方は、働き始めたことで「労働能力が回復し、日常生活能力に著しい制限がない」と判断されれば、2級から3級へ変更される可能性もあります。
特に精神障害の場合、一般就労を開始したことで「日常生活能力に著しい制限はない」と判断され、支給停止につながる可能性があります。しかし、A型事業所やB型事業所のような福祉的就労であれば、通常の一般就労と異なり支援体制があるため、そのまま受給を継続できるケースが多いです。