
社会保険労務士
梅川 貴弘
うつ病などの精神疾患を抱えて、働きたくても働けずに困っている人たちに向けて障害年金の請求代行サポートを開始。
現在は、社会保険労務士6名、日本年金機構勤務経験者4名の専門チームで、全国のうつ病等で悩む方々の障害年金請求手続きを支援している。
[うつ病などの障害年金請求代行]
「病名が2つあると障害年金を2つ受け取れるの?」「2つの病名で申請したほうが有利なの?」──そんな疑問をお持ちの方へ。
この記事では、障害年金申請(請求)時に傷病名が複数ある場合の基本的なルールや、認定方法(併合認定・差引認定・総合認定)の違い、等級が上がるケース・上がらないケースを具体例付きで解説します。
精神障害が複数ある場合の注意点や初診日の考え方まで、障害年金専門の社労士がわかりやすくお届けします。
目次
障害年金を申請する際に、傷病名が2つ以上ある場合でも、受給できる障害年金は1つだけです。年金制度には「一人一年金」という原則があるため、いくつ病名があっても複数の障害年金を同時に受け取ることはできません。
たとえば、「うつ病」と「発達障害(ADHDやASDなど)」の両方で診断されている場合に、それぞれで年金を申請して2つを受け取るということはできません。
ただし、複数の障害があることで、単独の障害では障害等級に該当しないケースでも、併せて評価されることによって障害等級に認定される可能性はあります。
とはいえ、このような判断はケースバイケースです。障害の種類や部位、障害の程度によって認定方法が異なるため、申請時には慎重に判断しましょう。
複数の病名や障害がある場合、障害年金の認定方法には、大きく分けて「併合認定(加重認定)」「差引認定」「総合認定」の3つがあります。
併合認定とは、2つ以上のそれぞれの障害について障害年金の等級判定を行い、それらを日本年金機構が定める表に当てはめて、最終的な障害等級を判断するというものです。
加重認定とは、2級以上の障害年金を受給している場合に、新たに障害等級2級以上の別の障害を負った場合に適用されます。
複数の障害を併せて評価することで、上位の障害等級に認定されることがあります。
差引認定は、障害認定の対象とならない障害(前発障害)と同一部位に、新たな障害(後発障害)が生じた場合に適用されます。
現在の障害の程度から、前発障害の程度を差し引いたうえで、改めて後発障害の障害状態が評価されます。
総合認定は、それぞれの障害を単独で評価するのではなく、まとめて1つの障害として障害等級を判定する認定方法です。精神疾患や内科的疾患が複数生じている場合のように、個別の評価が難しいケースにおいて適用されます。
併合認定の流れは以下の通りです。
併合認定は、単独の障害で申請するよりも上位の等級に認定されることがあります。しかし、複数の障害があるからといって、必ずしも障害等級が上がるわけではなく、障害の部位や状態によって異なります。
具体例を挙げながら、併合して障害等級が上がる場合と上がらない場合について、説明します。
▶右手の障害(右手のおや指とひとさし指を併せー上肢の4指を廃したもの)と視力の障害(視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの)があるケース
部位 | 障害の状態 | 障害等級 | 併合判定参考表 | 併合認定の結果 |
---|---|---|---|---|
手の障害 | 右手のおや指とひとさし指を併せー上肢の4指を廃したもの | 3級 | 7号-5 | 2級 |
眼の障害 | 視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの | 3級 | 6号-1 |
併合認定表により、手の障害(7号-5)と眼の障害(6号-1)を組み合わせると併合番号は4号となり、障害等級「2級」と認定されます。
つまりそれぞれ単独では3級ですが、併せて認定されることで2級になり、障害等級が上がります。
この場合は、それぞれの障害に応じた診断書を提出する必要があります。(障害年金の診断書は、症状別に「眼」「肢体」「精神」「腎疾患」など8種類に分かれています。)
また、複数の障害が同一原因によるものか、異なる原因によるものかによって、初診日も変わってきます。それによって、受診状況等証明書や病歴・就労状況等申立書も傷病ごとに準備する必要があります。
▶精神の障害(うつ病により、精神に労働が著しい制限を受ける程度のもの)と肢体の障害(人工関節置換により、身体の機能に労働が著しい制限を受ける程度のもの)があるケース
部位 | 障害の状態 | 障害等級 | 併合判定参考表 | 併合認定の結果 |
---|---|---|---|---|
精神の障害 | 精神に労働が著しい制限を受ける程度のもの | 3級 | 7号-9 | 3級 |
肢体の障害 | 身体の機能に労働が著しい制限を受ける程度のもの | 3級 | 7号-8 |
併合認定表により、精神の障害(7号-9)と肢体の障害(7号-8)を組み合わせると併合番号は6号となります。この場合、障害等級は「3級」のまま変わりません。
このように、併合によって等級が上がらない場合には、あえて複数の障害で申請するメリットは少ないと言えます。両方の障害で申請すると、それぞれに対して診断書や受診状況等証明書などの書類が必要となり、手間や費用が余計にかかってしまいます。
複数の障害がある場合には、併合認定によって障害等級が上がる可能性と、書類準備の手間や費用といったデメリットの両面を踏まえた上で、慎重に申請方法を検討する必要があります。
判断に迷うようであれば、社労士などの専門家に相談し、自分にとって最適な申請方法を選ぶことが大切です。
社会保険労務士
梅川 貴弘
精神障害が複数併存している場合、まとめてひとつの障害とみなし、日常生活への総合的な影響を重視して行われます。
しかし、病名によっては注意したい点がありますので、具体的な病名を挙げて説明しましょう。
うつ病と発達障害のように、どちらも障害年金の対象病名である場合は、それぞれの障害の特性が日常生活に与える影響を総合的に判断して認定が行われます。
たとえば、うつ病による著しい意欲低下や無気力が生じていることや、発達障害による対人関係の困難などを総合して、日常生活全般にどれだけ支障があるかが判断されます。
診断書には、うつ病と発達障害の病名を併記してもらい、両方の障害が日常生活に与える影響を1枚にまとめて記載してもらいましょう。
(うつ病と発達障害を異なる医療機関で治療されている場合は、それぞれの主治医に診断書を依頼することになります。)
うつ病とパニック障害を併発しているケースでは、診断書の記載内容に注意が必要です。というのも、うつ病は障害年金の対象ですが、「パニック障害」や「不安障害」、「強迫性障害」などは神経症に分類され、原則として障害年金の対象外となります。
そのため、診断書に「うつ病」と記載されていても、記述の大半がパニック発作や不安感、強迫行為といった対象外病名に関する症状ばかりである場合、「うつ病単独では日常生活に深刻な支障は出ていないのではないか」と判断され、不利な評価(差引認定)につながる可能性があります。
診断書においては、障害年金の対象である「うつ病」の症状(抑うつ気分、意欲の著しい低下、思考力の減退など)を中心に記載してもらうことが大切です。
診断書には対象病名に関連する症状を重点的に記載してもらいましょう。また、病歴・就労状況等申立書についても、診断書と矛盾しないよう内容を整えることが大切です。
障害年金業務責任者
綾部真美子
精神障害が複数ある場合、診断書の内容だけでなく「初診日」の取り扱いにも注意が必要です。初診日は、障害年金の支給要件や申請できる年金の種類を左右する重要な要素だからです。
原則として、最初に精神科領域の受診をした日が「初診日」とされます。
たとえば、「うつ病」と「パニック障害」の両方で診断されている場合は、どちらか早い方の初診日が適用されると考えられます。
この場合も、原則として、最初に精神科領域の受診をした日が「初診日」とされます。
発達障害は幼少期から症状が現れるケースが多く、初診日もかなり前になることがあります。20歳前に初診がある場合は「障害基礎年金」の対象となります。
知的障害を伴う場合は、先天性の障害とみなされるため、初診日は原則として「出生日(誕生日)」とされます。 大人になってから知的障害と診断された場合でも、初診日は「出生日」となり、「障害基礎年金」の対象となります。
※上記は一般的な考え方であり、認定に当たっては発症の経過や症状から総合的に判断されます。
初診日が変わることで、加入していた年金制度(国民年金・厚生年金)が変わる場合があり、それによって申請できる障害年金の種類や支給額にも大きな影響が出ます。申請内容そのものが変わる可能性があるため、初診日は慎重に判断することが大切です。
社会保険労務士
梅川 貴弘
障害年金の申請において傷病名が2つ以上ある場合でも、受け取れる年金は1つだけです。
この場合は、それぞれの障害に合わせた認定方法が適用され、場合によっては単独で申請するよりも上位の等級に認定される可能性があります。
特に精神障害が複数あるケースでは、診断書や申立書の記載内容が重要であり、内容によっては不利な評価を受けることもあるため、慎重に書類を整えることが求められます。
申請にあたっては専門的な知識が必要となる場面も多く、特に複数の病名が関係する場合は判断が難しいケースもあります。そのため、早い段階で社労士などの専門家に相談することが、適切な申請につながる大きなポイントです。
いいえ。障害年金は「1人につき1つの年金」という制度上の原則があるため、病名が複数あっても年金を2つ受け取ることはできません。ただし、複数の障害を併せて評価することで、等級が上がるケースはあります。
必ずしも有利とは限りません。併合認定で等級が上がる場合もありますが、等級が変わらないこともあります。書類の負担も増えるため、申請方法は慎重に選ぶ必要があります。
うつ病と発達障害など、障害年金の対象となる精神疾患が複数ある場合は「総合認定」が適用されます。それぞれの障害が日常生活に与える影響をまとめて評価し、障害等級が決定されます。
双極性障害とADHDは、いずれも障害年金の対象病名です。症状が重く、日常生活に著しい支障があると認められた場合には、障害年金の受給の可能性があります。診断書には、それぞれの障害が日常生活に与えている影響を、まとめて記載してもらうことが重要です。
統合失調症は障害年金の対象病名ですが、不安障害は原則として対象外とされています。そのため、診断書の内容が不安障害の症状ばかりになっていると、統合失調症単体での評価が下がる可能性があります。診断書には、統合失調症による症状や日常生活への影響を中心に記載してもらうことが大切です。
複数の病名が関係する申請では、認定方法や書類の準備に専門知識が求められます。社労士に相談することで、適切な申請方法や書類作成のアドバイスを受けることができ、受給の可能性を高めることができます。
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