うつ病などの精神疾患を抱えて、働きたくても働けずに困っている人たちに向けて障害年金の請求代行サポートを開始。
現在は、社会保険労務士6名、日本年金機構勤務経験者4名の専門チームで、全国のうつ病等で悩む方々の障害年金請求手続きを支援している。
[うつ病などの障害年金請求代行]
「障害年金は仕事をしていても、もらえるの?」というご相談をよくいただきます。
結論からいうと、働きながらでも障害年金を受給することは可能です。当事務所でも、働きながら受給した事例は多くあります。
ただし、就労状況が審査に大きく影響する場合もあります。特にうつ病や発達障害などの精神障害で申請(請求)する場合は、就労状況によっては不支給となることもあります。
この記事では、うつ病などの精神疾患の方が、働きながら障害年金を申請する際に注意すべきポイントについて解説します。
また、現在は働いていないけれど受給後に働き始めた場合、どのような影響があるのかも気になるところですよね。
後半では、更新手続きの流れやポイントについてもご説明します。
働きながら障害年金を受給したい、今は働けていないがいずれ復帰したいと、悩んでいる方はぜひ参考になさってください。
目次
障害年金とは、公的年金の制度のひとつであり、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に支給される年金です。
2019年の統計によると、障害年金を受け取りながら働いている方は、身体障害48.0%、知的障害58.6%、精神障害34.8% となっています。
つまり、身体障害の方は約2人に1人、知的障害の方は2人に1人以上、精神障害の方は3人に1人が働きながら障害年金を受給しています。
(参考:厚生労働省「障害年金制度」(2023年))
障害年金の受給には、一定の要件を満たしている必要がありますが、この受給要件には「働けない」ことは明記されていません。
以下が、障害年金の受給要件になります。
■障害基礎年金■
(1)原則として、初診日に国民年金に加入している
(2)初診日の前日において保険料の納付要件を満たしている
(3)障害認定日または20歳に達したときに障害の状態が1級~2級に該当している
■障害厚生年金■
(1)初診日に厚生年金に加入している
(2)初診日の前日において保険料の納付要件を満たしている
(3)障害認定日に障害の状態が1級~3級に該当している
※初診日とは?…障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日のことをいう。
※障害認定日とは?…障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6カ月を過ぎた日、または1年6カ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日のことをいう。
また、障害の状態については、次のように定められています。
■障害の程度1級■
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方が、1級に相当します。
■障害の程度2級■
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。
■障害の程度3級■
労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当します。
(引用元:日本年金機構「障害年金ガイド」)
傷病によって、就労が審査に影響を与えるものとそうでないものがあります。
検査数値などで客観的に判断できる場合とそうでない場合では、就労状況に対する影響が異なります。
①障害等級が原則として決まっている傷病
以下の傷病は、原則として障害等級が決まっているため、仕事をしても障害年金の審査に影響がありません。
■障害等級の目安…1級■
・心臓移植
・人工心臓
■障害等級の目安…2級■
・人工透析
・喉頭全摘出
■障害等級の目安…3級■
・人工関節
・人工肛門
・人工弁、心臓ペースメーカー、ICD
②検査等で障害の程度が判断できる傷病
視覚や聴覚、手足の不自由などの外部障害は、検査数値等で障害の程度が判定されるため、仕事をしても障害年金の審査に影響がありません。
■視覚障害■
1級:両眼の視力がそれぞれ0.03以下のもの
2級:両眼の視力がそれぞれ0.07以下のもの
3級:両眼の視力がそれぞれ0.1以下に減じたもの
■聴覚障害■
1級:両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
2級:両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの
3級:両耳の聴力が、40センチメートル以上では通常の話声を解することができない程度に減じたもの
■肢体障害■
1級:両上肢の全ての指を欠くもの
両下肢を足関節以上で欠くもの
2級:一上肢の全ての指を欠くもの
一下肢を足関節以上で欠くもの
3級:一上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの
一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの
※上記は一例になります。
精神障害や内部障害は、障害の程度を数値で表すことが難しい場合が多く、診断書の内容に基づいて、日常生活にどれくらいの制限があるか審査されます。
また、診断書には就労状況を記載する欄があります。審査では「働けているならば、障害の程度は軽い」と判断されやすくなります。
うつ病などの精神疾患で働いているからといって、必ずしも「不支給」になるわけではありません。
以下のような場合は、働きながらでも障害年金を受給できる可能性があります。
うつ病などの精神疾患を抱えて働いている場合、受給が難しいのは一般雇用でフルタイム勤務の場合です。理由としては、フルタイム・正社員で働いている場合は日常生活能力や労働能力があると見なされるからです。障害の程度が軽度と判断され、受給の可能性が低くなります。
障害認定基準には「精神の障害」について、次のような規定があります。
『労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すること。』
つまり、働いているからといって障害の程度が軽いと判断せず、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、周囲とのコミュニケーションの状況なども十分に考慮して判断するということです。
申請の際には、このポイントをおさえて請求書類に記載する必要があります。また、就労中や就労後の心身の状況についても伝えましょう。
具体的な例をあげると、次のような内容です。
①仕事の種類、内容
・発病後、障害者雇用に変更になった
・荷物の梱包など、単純作業を行っている
②就労状況
・疲れやすく、休憩時間を多く取っている
・体調不良で、休みがちである
③仕事場で受けている援助の内容
・通勤が免除され、在宅勤務が認められている
・会議の参加や電話対応は免除されている
④周囲とのコミュニケーションの状況
・業務内容が簡単にわかるよう、マニュアル化されている
・あいまいな指示や複数の指示が理解できない
⑤就労中、就労後の心身の状況
・臨機応変な対応ができず、パニックになりやすい
・帰宅後は、ぐったりして動けない
・休日は、何もやる気がおきずベッドから起きられない
これらの内容を診断書や病歴・就労状況等申立書に記載し、労働にどのような制限があるか、日常生活にどれだけ支障があるかを伝えましょう。
特に、診断書は障害年金の審査で最も重要視される書類です。
症状を正確に診断書に反映してもらうためには、主治医に日頃から自身の日常生活や就労の状況について、伝えておくことが大切です。
診察時は緊張して医師とうまく話せない方も多いと思います。事前に伝えたいことをメモにしておく、家族に同席してもらうなどして、伝えられる工夫をしてみましょう。
障害年金の申請において、症状を伝える主な書類は、次の2つです。
しかし、これらの書類だけでは正確に症状・状況を伝えきれず、不支給となる可能性もあります。
そこで、次のような書類も用意すると、より細かい内容を伝えることができるでしょう。
体調により欠勤や、遅刻、早退が多いような場合は、就労が不安定であることを証明できる客観的資料を用意しましょう。
具体的には、次のような書類です。
上司や同僚などに、勤務時の様子や援助の内容を記載してもらいます。
障害があることで、業務にどのような支障があるのか、会社ではどのような配慮をしているかを記載してもらいましょう。
例えば、以下のような内容です。
自分で記入する病歴・就労状況等申立書に対して、意見書は上司や同僚など第三者に記入してもらうため客観性が高まります。
ご家族などに、日常生活でどのようなことに苦労しているか、どのようなサポートが必要かなどを記載してもらいます。
就労後の心身の状況なども細かく記載してもらいましょう。
例えば、以下のような内容です。
障害年金の受給が無事に決定しても、多くの場合、1〜5年ごとに「更新」を行う必要があります。これは、障害の状態に変化があった場合に、障害等級が見直される仕組みになっているためです。
手続きの流れとしては、基本的に「障害状態確認届」という診断書を提出するだけで、申請時のように多くの書類を準備する必要はありません。
更新時の障害の程度によっては、低い等級に変更されたり、年金が支給停止になったりすることもあります。そのため、申請時には働いていなかったものの、受給後に働き始めた場合は、更新時に注意が必要です。
例えば、申請時に精神疾患のため就労できず、障害等級2級の認定を受けた方が、更新時に働いていた場合、障害の程度が軽くなったと判断されることがあります。その結果、等級が3級に変更されたり、年金の支給が停止されたりする可能性があります。
ただし、就労しているからといって、必ずしも等級変更や支給停止になるわけではありません。仕事の内容、就労状況、会社から受けている配慮の内容、生活への支障の程度などをもとに判断されます。
つまり、更新時も申請のときと注意すべきポイントは同じです。
医師に自身の日常生活や就労状況を伝え、更新時の診断書に反映してもらうことが大切です。
障害年金は、必ずしも「働いている=不支給」とは限りません。
しかし、うつ病などの精神疾患の場合、就労状況が重要な審査ポイントとなります。
申請時には、就労状況や周囲の方の支援内容などを示す書類を準備することが必要です。
具体的には、仕事の種類や内容、就労状況、職場で受けている援助の内容、周囲とのコミュニケーションの状況などを診断書や病歴・就労状況等申立書に詳しく記載しましょう。
他にも、給与明細書などの客観的資料を用意するなどの工夫も効果的です。
労働にどのような制限があるか、日常生活にどれだけ支障があるかを伝えることが大切です。
体調のすぐれないなか、ご自身で障害年金の手続きを行うことはかなりの負担となります。申請に不安がある場合は、社労士などの専門家に相談することをおすすめします。日常生活や仕事の難しさを正確に伝え、障害年金の受給の可能性を広げることができます。
障害年金の申請を検討している方の中には、心身ともに限界を感じながら働いている方も多いでしょう。しかし残念ながら、働いているという事実が、日常生活能力や労働能力があると見なされる要素になります。
障害年金を受け取るための、収入や勤務日数などの明確な基準はありません。就労状況、日常生活の状況、周りの方々からのサポート内容などをもとに障害の程度が判断されます。
障害年金は非課税ですが、働いた分のお給料は課税対象となります。
基本、所得制限はありません。ただし、20歳前傷病による障害基礎年金(20歳前に初診日がある場合)は、年収が一定の金額を超えると減額や支給停止になります。
基本、知られることはありません。障害年金を受給していることを申告する義務もありません。
働き始めてすぐに支給が止まることはありません。一度支給が決まった障害年金は、次の更新までは必ず受け取ることができます。
症状が安定している期間が続く場合は、障害者雇用枠での就労や就労支援事業所への通所を検討するのもよいでしょう。