
社会保険労務士
梅川 貴弘
うつ病などの精神疾患を抱えて、働きたくても働けずに困っている人たちに向けて障害年金の請求代行サポートを開始。
現在は、社会保険労務士6名、日本年金機構勤務経験者4名の専門チームで、全国のうつ病等で悩む方々の障害年金請求手続きを支援している。
[うつ病などの障害年金請求代行]
ADHD(注意欠如・多動症)による生活の困難さから、障害年金の申請(請求)を考える方は年々増えており、当事務所にも多くのご相談が寄せられています。しかし、障害年金の申請には様々な要件があり、適切な準備が不可欠です。
この記事では、ADHDで障害年金を受給するための要件や申請のポイント、注意点を詳しく解説します。スムーズな申請をサポートするための実践的なアドバイスもご紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
目次
ADHD(注意欠如多動症、注意欠陥多動性障害)は、ASD(自閉スペクトラム症)やLD(学習障害)とともに、発達障害に分類されます。
ADHDには主に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性があり、それぞれ以下のような症状が見られます。
ADHDは子どもに多いとされていますが、大人になっても症状が続くケースは少なくありません。特に、成人してから診断されるケースも増えており、仕事や社会生活の中で困難を感じ、受診して初めてADHDが発覚することもあります。
ADHDの症状には個人差があり、軽度であれば日常生活への影響はほとんどありません。しかし、症状が強い場合は仕事や対人関係に大きな支障をきたし、社会生活が難しくなることもあります。 こうした影響が深刻な場合、障害年金の受給対象となる可能性があります。
ただし、ADHDと診断されたからといって必ず障害年金を受け取れるわけではありません。 受給するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
原則として、障害の原因となった病気やケガで初めて病院に行った日(初診日)が年金制度の被保険者期間であること。
ただし、初診日が20歳未満の方や60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、公的年金制度に加入していなくとも、問題ありません。
初診日の前日において、年金保険料を一定期間以上納付していること。具体的には、次のどちらかを満たしている必要があります。
障害年金の基準に定める程度の、障害状態であること。
障害年金が支給される障害の状態に応じて、法令により、障害の程度(障害等級1~3級)が定められています。
では、障害等級1~3級とはどの程度の症状なのか、ご説明します。
障害年金の審査は、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」に基づいて行われ、これには、障害の状態がどの程度ならば、何級に該当するかが定められています。
発達障害においては、以下のように記載されています。
1級: 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの
2級:発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの
3級:発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの
つまり、ADHDと診断されたからといって必ずしも障害年金の基準に該当するわけではなく、障害の特性によって日常生活や就労にどれくらいの制限があるかが、等級を決定する際の重要な要素になります。これらは主に、申請時に提出する「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」の内容をもとに判断されます。
なお、3級は障害厚生年金にのみ認められています。障害年金の種類(障害基礎年金・障害厚生年金)は、初診日時点で加入していた年金制度によって決まります。障害年金の種類によって、該当する等級や受給できる金額も異なります。
続いて、障害年金を受給した場合はいくらもらえるのか、障害年金の種類と年金額についてご説明します。
障害年金は障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日(※)に加入していた年金制度によって支給される障害年金が異なります。
障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日のこと。
国の公的年金制度は2階建てになっていて、1階部分が「基礎年金」、2階部分が「厚生年金」となっています。
金額は年度ごとに変動します。こちらは、令和7年度の金額になります。
■障害基礎年金■
障害基礎年金は、1級・2級があり、年金額は障害等級ごとに定額です。
(※1)18歳年度末までの子どもがいる場合は、子の加算が支給されます。
子の加算額・・・第1子・第2子 各239,300円、第3子以降 各79,800円
■障害厚生年金■
障害厚生年金は、1級・2級・3級があり、加入期間や支払った保険料によって人それぞれ異なる報酬比例の年金額になります。
障害等級が3級の場合は、障害厚生年金だけが支給され、障害等級が1級、2級の場合は、障害基礎年金も支給されます。
(※2) 配偶者が65歳未満の場合、配偶者の加給年金が支給されます。
配偶者の加給年金額・・・239,300円
障害基礎年金に3級はありません。初診日に国民年金に加入していた方は、障害等級1級または2級に該当しないと、障害年金は支給されませんので注意しましょう。
障害年金の申請において、初診日は非常に重要なポイントです。 初診日とは、障害の原因となる傷病について初めて医療機関を受診した日を指し、この日を証明できないと申請が認められない可能性があります。
ADHDの場合、子どもの頃に診断を受けているケースや、過去に精神科・心療内科を受診した経験があるケースもあります。しかし、初診から時間が経っていると、医療機関のカルテがすでに破棄されている可能性があり、初診日の証明書である「受診状況等証明書」を作成してもらえないことがあります。
このような場合には、その他の資料(当時のお薬手帳や診察券など)を提出するなどし、初診日を証明する必要があります。
ADHDの初診日は、障害年金の申請において非常に重要なポイントですが、他の精神障害(うつ病、適応障害、知的障害など)と関係して、取り扱いが変わることがあるため注意が必要です。
ADHDの場合は、不眠や抑うつなどの症状を伴うことが多く、初診時にADHDと診断されるとは限りません。
最初は「うつ病」「双極性障害」「適応障害」など別の病名がつくこともあり、治療を続けても改善せず、転院や検査を経てようやくADHDと診断されるケースも少なくありません。
この場合、多くは同一疾病として扱われるため、ADHDと確定診断される前であっても、最初に精神症状で受診した日が障害年金の「初診日」となります。
ADHDと他の精神疾患を併発している場合、障害年金の申請では、より早い初診日が適用される可能性があります。たとえば、先に「うつ病」で受診し、その後ADHDと診断された場合、多くは、うつ病の初診日が障害年金の「初診日」となります。
同じ先天的な疾患であっても、ADHD単独の場合と、知的障害を伴う場合では、初診日の取り扱いが大きく異なります。
ADHDは発達の過程で症状が明らかになることが多いため、通常は「初めて医療機関を受診した日」が初診日となります。しかし、知的障害を伴う場合は、生まれつきの障害とみなされるため、初診日は原則として「出生日(誕生日)」となります。
初診日が出生日になると、「障害基礎年金」の対象になります。仮に成人後、厚生年金に加入している期間に初めて受診し、「知的障害を伴う発達障害」と診断された場合でも、原則として初診日は「出生日」となります。
障害厚生年金ではなく障害基礎年金の対象となりますので注意しましょう。
障害年金の審査では、医師の診断書が非常に重要な役割を果たします。
診断書には、単に「ADHDの診断」という事実だけでなく、日常生活や社会生活でどのような困難が生じているのかを記載してもらうことが必要です。 そのためには、自身の具体的な症状や、それが日常生活や仕事にどのような影響を与えているのかを、できるだけ詳しく主治医に伝えることが大切です。
ADHDのある方が日常生活で直面しやすい困難の例を挙げますので、参考にしてみてください。
また、ご家族と一緒に生活している場合は、日常のどのような場面で家族が声がけやサポートを行っているのかを整理するのも有効です。 医師に伝える際には、家族の支援がなければどのような問題が生じるのかを具体的に説明すると、より実態が伝わりやすくなります。
ADHDのある人は、診察時に話が飛んでしまったり、伝えたいことが整理できずに十分に説明できなかったりすることがあります。そこで、事前に自分の症状や困りごと、周囲のサポート内容をメモにまとめ、診察時に主治医に手渡すことをおすすめします。
障害年金の診断書は記載されているすべての項目が重要ですが、特に注目すべきは、診断書の裏面にある「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」の欄です。
「日常生活能力の判定」・・・赤枠
「日常生活能力の程度」・・・青枠
【日常生活能力の判定】
日常生活能力の判定欄では、日常生活の7つの場面における制限度合いを、医師が判定し記載します。この評価は、「単身で生活した場合、可能かどうか」で判断します。
【日常生活能力の程度】
日常生活全般における制限度合いを包括的に評価し、次の5段階のなかから医師が記載します。
ADHDなどの精神疾患の場合は身体的な疾患と比べて数値で障害の程度を判断することが難しいため、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(以下、ガイドライン)で具体的な基準が示されています。
このガイドラインでは、「障害等級の目安」が示されており、診断書(精神の障害用)の裏面にある「日常生活能力の判定」および「日常生活能力の程度」に応じて定められています。
この表は、診断書の裏面にある「日常生活能力の判定」の評価の平均が縦軸、「日常生活能力の程度」の評価が横軸となり、これらを組み合わせ、どの障害等級に相当するかの目安を示しています。
※「日常生活能力の判定」とは、先述した診断書の赤枠部分、「日常生活能力の程度」は青枠部分を指します。
判定平均は、「日常生活能力の判定」の7つの項目における4段階評価を、程度の軽い方(左)から重い方(右)に向かって1~4の点数に置き換えます。
障害の程度が重いほど点数が高いことになります。
7項目の平均点(7項目の点数の合計 ÷7)を計算したものが「判定平均」です。判定平均と程度を上の表に当てはめて、障害等級の目安が示されます。
例えば、日常生活能力の判定の平均値が3.0、日常生活能力の判定が(3)の場合は、2級相当となります。
なお、障害基礎年金に3級はありませんので、障害基礎年金を申請する場合は、表内の「3級」は「2級非該当=不支給」と置き換えましょう。
障害等級は、「障害等級の目安」にそのまま従って決定されるわけではありません。この目安は、等級判定における重要な指標のひとつですが、あくまで参考基準であり、 診断書や病歴・就労状況等申立書などの申請書類に記載された内容を総合的に考慮したうえで判断されます。
そのため、審査の結果、目安よりも低い等級と認定されることもあります。
また、「総合評価の際に考慮すべき要素の例」として、5つの分野(①現在の病状又は状態像、②療養状況、③生活環境、④就労状況、⑤その他)において、考慮すべき要素と具体的な内容例が示されています。
考慮すべき要素の例については、内容が広範囲にわたるため、この記事では省略させていただきます。
病歴・就労状況等申立書は、申請者の日常生活の状況やこれまでの経緯を詳しく説明する書類です。 障害年金の審査では、診断書の内容を補完する重要な資料となり、申請者の生活実態を伝える役割を果たします。
この書類は、申請者本人やご家族が作成するほか、社会保険労務士が代筆を行うことも可能です。
ADHDの方の場合、生まれた日から現在に至るまでを時系列に沿って記載し、日常生活や就労状況を具体的に示すことが求められます。
作成時には、できるだけ具体的かつ客観的な表現を心がけましょう。障害年金の審査は書類のみで行われるため、具体的なエピソードや事例を盛り込むことで、審査員がより正確に申請者の状況を理解しやすくなります。
具体的には、次のような内容を記載します。
病歴・就労状況等申立書では、日常生活や仕事にどのような支障があるのかを具体的に伝えることが重要です。 そのため、できることよりも「できないこと」や「困っていること」に焦点を当てて記入することが求められます。
過去の辛い経験を振り返ったり、「できないこと」を書き出していく作業は、精神的に負担を感じることがあるかもしれません。
そのような場合は、社労士などの専門家に代筆を依頼するのもひとつの方法です。 社労士は、ご本人やご家族から日常生活の状況を詳しく聞き取り、特にどの部分で困難を感じているのかを整理しながら申立書を作成します。
当事務所ではヒアリングの際に具体的な事例を提示しながら、日常生活にどのような影響があるのかを確認していきます。具体例を示すことで、ご本人やご家族が気づいていなかった問題点が明らかになることもあります。
社会保険労務士
梅川 貴弘
障害年金は、働いていても受給することは可能です。ただし、就労していると、「日常生活能力や労働能力がある」と見なされ、障害の程度が軽く判断される傾向にあります。
そのため、申請の際には、仕事の種類や内容、就労状況、職場で受けている援助の内容、周囲とのコミュニケーションの状況などを具体的に伝えることが重要です。特に、障害者雇用や就労継続支援事業所で働いている場合は、審査で考慮されるため、必ず診断書に記載してもらいましょう。
また、会社から配慮を受けている短時間勤務やパート・アルバイト勤務のような場合は、受給の可能性があります。以下のような配慮を受けている場合は、申請書類に就労状況を具体的に記載することが重要です。
障害年金は、通常、初診日から1年6カ月を経過した「障害認定日」を基準に審査が行われます。しかし、20歳より前に初診日がある場合、障害認定日は「20歳に達した日」となることがあります。
つまり、20歳の時点で障害の程度が認定基準に該当すれば、20歳から障害基礎年金を受給することが可能です。 申請時には、20歳時点の診断書が必要となるため、事前に医師と相談し、準備を進めておくことが大切です。
定期的な通院や服薬の必要がない方の中には、かかりつけ医がいない場合もあると思います。
障害年金の申請を考えている場合は、高校在学中など早い段階から診断書を依頼できる医師を見つけておくとスムーズです。さらに、1回の受診だけでは医師が症状を十分に把握することが難しいため、20歳になる前に何度か通院し、主治医としっかりコミュニケーションを取っておくことをおすすめします。
ADHDで障害年金を申請する手続きの流れは以下のとおりです。手続きは複雑に感じるかもしれませんが、事前に申請の流れを理解しておけばスムーズに進めることができます。
最初に行うべきことは、初診日の特定です。初診日が分からないときは、医療機関に問い合わせてみましょう。
障害年金は、年金保険料を一定期間以上納付している必要があります。過去に年金を納めていない期間がある方は、年金事務所で保険料納付要件を満たしているか、確認しましょう。
障害年金の申請に必要な書類を準備します。主な書類は以下の通りです。
①受診状況等証明書 | 初診日を証明するための書類。 |
②診断書 | ADHDの症状や日常生活への影響を記載した医師の診断書。 |
③病歴・就労状況等申立書 | 自身の症状の経過や就労状況を詳細に記載した書類。 |
④年金請求書やその他添付書類 | 預金通帳のコピーなど。 |
必要書類が揃ったら、年金事務所などに提出します。提出後、日本年金機構による審査が行われます。審査期間は通常3か月程度です。
ADHDで障害年金を受給することは可能です。しかし、ADHDと診断されたからといって必ず受給できるわけではなく、障害年金の審査では、どれだけ日常生活や社会生活に困難を抱えているかが重要視されます。
特に、診断書の記載内容は審査結果に大きな影響を与えます。医師としっかりコミュニケーションを取り、日常生活における困難を正確に診断書に反映してもらうことが大切です。
また、ADHDは子供だけでなく、大人になってから診断されるケースも増えています。就労している場合でも受給の可能性はあるため、仕事や社会生活での困難を感じた際には、障害年金の申請を検討してみましょう。
障害年金の申請は、一人ひとりの状況に応じて手続きが異なる部分が多くあります。
当事務所では、障害年金申請の専門家として、申請書類の作成や手続きのサポートを行っております。ADHDの方は、無料で相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にご連絡ください。
社会保険労務士
梅川 貴弘
障害年金は、「ADHDだけだともらえない」「発達障害だけではもらえない」ということはありません。当事務所でも、ADHDだけの診断で障害年金が受給された事例は多くあります。しかし、ADHDの方皆さんが受給できるわけではなく、症状の重さ、日常生活や就労への影響などをふまえて、審査が行われます。
ADHDなどの発達障害を抱える方は、二次的にうつなどの精神疾患を併発することが多いとされています。 これは、障害の特性によって対人関係や仕事での困難が続き、自己評価が下がり、強いストレスを抱えやすくなるためです。
二次障害を併発している場合、障害年金の審査では、それぞれの障害を個別に判断するのではなく、ADHDとその他の精神疾患の症状を総合的に考慮したうえで、等級が決定されます。そのため、診断書や病歴・就労状況等申立書などの申請書類には、ADHDと併発している精神疾患の両方の症状が適切に記載されていることが重要です。
障害年金と障害者手帳は全く別の制度であり、審査の基準も異なります。そのため、障害年金が障害者手帳と同じ等級に認定されるとは限りません。また、障害年金は、障害者手帳を持っていなくても受給できます。
障害年金は、一定の条件を満たせば、障害認定日にさかのぼって請求(遡及請求)することも可能です。ただし、障害年金には時効があり、過去にさかのぼって年金を受給できる期間は、5年が限度です。申請が遅れると、その分もらえるはずの年金が時効により消滅してしまいますので、早めに申請することをおすすめします。
障害年金を受給することの、大きなデメリットはありません。生活保護や傷病手当金などを受給している場合は、金額の調整が行われますが、収入が減ってしまうことはありません。障害年金と合わせて同じ額、または制度によっては少し多くもらえるように調整されます。
障害年金を申請した結果が不支給となった場合でも、すぐに諦める必要はありません。不支給の理由を確認し、不服申立て(審査請求)や再申請などの対応を検討しましょう。
適切な対策を取ることで、支給決定につながる可能性もあります。困ったときは専門家である社労士に相談することも有効な方法です。
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